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福岡高等裁判所 昭和38年(ツ)62号 判決 1963年10月23日

上告人 小島町農業共済組合

被上告人 田尻晃

主文

本件上告はこれを棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由について。

農業災害補償法第八六条第八七条第八七条の二、地方自治法第二二五条等の規定によれば、農業災害補償法に基いて設立された上告人組合(農業共済組合)は、組合員から共済掛金及び賦課金を徴収するために、あえて裁判所に訴を提起し債務名義を得るまでもなく、同法並びに同法の適用する地方自治法第二二五条等の所定の手続によつて滞納処分の例により、これを強制徴収することのできることが明らかである。組合員である被上告人が、共済掛金及び賦課金がすでに時効によつて消滅したことを抗弁とする場合においても、上告人組合において時効による消滅を否定し、共済掛金及び賦課金の存在することを確信するときは、滞納処分の例による強制徴収手続をとることを妨げない。被上告人において右徴収処分を違法とするにおいては、同人より行政事件訴訟法に基づいて、その処分の取消しないし時により無効確認の訴えを提起し得べく、この訴訟において共済掛金及び賦課金の強制徴収権の存否が裁判所によつて最終的に判断されるのである。すなわち、以上の説明によつて明らかなように上告人の本訴請求は、訴えの必要及び利益を欠くという意味において排斥を免れず、原判決がこの訴えについて裁判所に出訴を許す旨の規定がないとして、本訴を排斥したのは、憲法第七六条の主旨と裁判所法第三条の解釈を誤つたかのように見えその理由において不当であるが、本訴を却下した終局の判断は相当である。

論旨は以上と異なる見解を基礎とするもので採用に値しない。

よつて民訴第四〇一条第九五条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 池畑祐治 秦亘 佐藤秀)

別紙 上告理由

一 第二審判決は憲法に違背し且つ法令の解釈適用を誤り第一審の訴却下の判決を維持して控訴棄却の判決を為したるは重大なる法律違背の裁判である

二 先づ上告人(原告)の被上告人(被告)に対する本訴請求事件について請求の理由を要約するに上告人はその組合員たる被上告人に対し組合の定むる定款に基き組合員作付の米麦に対する一定の共済掛金同賦課金遅延損害金を各年度毎に賦課し被上告人等組合員は其納期日に於て上告組合に之を納入すべき義務あるものにして被上告人のその未納額は昭和三三年度以降昭和三六年度まで共済掛金及同賦課金計金二万四千四百九十四円也並にその遅延損害金六千四百七十五円也合計金三万九百六十五円也に及び之を毎年末督促状其他を以て屡々上告人より被上告人に請求し来たりたるところ被上告人は時効完成を理由としてその納付義務の存在を争い遂に之を組合に納入せざるに依り上告人は被上告人に対し昭和三七年二月二七日熊本簡易裁判所に対し支払命令の申立をなし同年三月一日同裁判所より支払命令が発せられたが被上告人は之に対し異議の申立に及びたる結果本訴として係属するに至つたものであり被上告人は飽くまでも時効を援用して右共済掛金等の納入義務の存在を争ふものである

三 第二審判決及第一審判決が上告人の本訴請求を不適法として訴却下の裁判をなしたる理由の大要は之等の債権は農業災害補償法により定められたる手続により地方税の滞納処分の例によつて行政処分として強制徴収すべきものであつて法令上特別の規定なき以上司法裁判所に出訴すべきものではない即ち裁判所の権限に属せずとして本訴を却下したものである

四 然れども右裁判所の法律見解は憲法第七十六条裁判所法第三条の規定に違背する不当なる解釈である

即ち裁判所は憲法に特別の定ある場合を除いては一切の法律上の争訟について裁判権を有することは憲法第七十六条裁判所法第三条に明記するところであり又国民は裁判所に出訴する権利を憲法第三十二条により保障されている又裁判所は具体的な法律的紛争である限り公法上の事項たると私法上の事項たるとを問わずその一切について裁判権を有するものである裁判所法第三条はこの憲法の精神を受けて「裁判所は日本国憲法に特別の定ある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判しその法律に於て特に定める権限を有する」と定めて我裁判権の範囲を明定し行政事件訴訟法第四条はこの趣旨を具体化して「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定により法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する訴訟の裁判手続を規定されて居り具体的な行政処分がなされない以前に於ても公法上の権利関係の存否につき法律的紛争が存在しその紛争を解決する必要がある場合即ち確認の利益ある限り裁判所は右権利関係の存否を確定し当事者間の紛争を解決する司法上の職責を有するものと解しなくてはならない

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